めがねの可能性を広げる!オリジナル商品メーカーインタビュー
めがねフェスでは、めがねの枠から飛び出した斬新なアイデアアイテムが並ぶお店も登場します。
元はめがねの素材だからこそ、人の肌に優しくなじんだり、鮮やかな色合いだったり……。
めがねの技術を使ってオリジナルアイテムを作り出し、技術の可能性を広げながら、現在はそれぞれにショップを構えて地域にも展開するメーカーのお三方からお話を伺いました。
<2023年公開記事>
簡単な自己紹介、普段の仕事内容の紹介をお願いします。
諸井 僕は元々自動車業界にいて、30歳でめがね業界にきました。現在はサングラスレンズ専門の「乾レンズ」の鯖江支店を任されています。うちに限らず眼鏡に関わる工場って素晴らしい技術を持っているのに、自分たちの技術を消費者目線でプレゼンできる力が足りないと感じていました。眼鏡部品としてのレンズ屋としては、従来のビジネスをこなしながら、新しいことを始めるってすごいパワーが必要じゃないですか?僕たちは、2009年のリーマンショックで、主軸の受託生産の注文が半減してしまうような危機的な状況にあった時に、注文が当たり前にあることに甘えてはいけないと痛感しました。
「下請け」じゃないんだ!「メーカー」なんだ!と自負してできることを必死に考えて、新しいものを作って、最後は自社で責任をもって販売していく。そういう姿勢で2009年4月に鯖江“ギフト組”(福井県眼鏡工業組合青年部に属する有志15社)を立ち上げたのです。みんなでやれば、良い事も悪い事も共有出来ますし、いろんな経験出来ますからね。ギフトショーに出展する費用負担も軽く、挑戦しやすくなる。14年以上のこの経験は、会社の強みを伸ばし、消費者に直接知っていただけたおかげで、コロナ禍においては、受託生産は激減しても自社商品の通販が動き、危機を逃れることができたと思います。あと、モノが売れる仕組みが大きく変わった事を実感できました。
津田 僕は鯖江生まれで、祖父から続くめがね会社の三代目(「プラスジャック」としては二代目)です。幼い頃から祖父に「鉛筆の代わりにヤスリを持ちなさい」と言われまして、中学生の時にはめがねを作れるようになっていました。正直、嫌でしょうがなかっためがねの仕事だったので(笑)、建築の仕事をしていたのですが、一度戻り、また離れ、30代でもう一度めがね業界に戻ってきました。
自分のプラスジャックという会社では、アセテート加工全般の作業をメインとして、アクセサリーや雑貨などパーツごとの加工の仕事も請け負っています。オリジナルアイテムとしては、100台ほどの多様な機械を活かして、材料となる「アセテート」の加工技術を用いた商品にも力を入れ、企画・製造・販売まで行っています。
吉川 僕の場合は、大学1年の12月に突然父が会社を辞めて独立したのが「KISSO」でした。阪神大震災があった年で、急に僕に会社を継げと言われまして……。めがね業界を知るために、ミラノの展示会に父の同行したところ、現地ではおよそ300人ほどのめがね業界の日本人で賑わっていてかなり驚きました。一緒に行った紳士服店では、ウェルカムシャンパンを出されてVIP対応をされる社長のおじさんを見た時に、めがね業界の凄さを目の当たりにして、まんまと僕はその世界に憧れてしまいました(笑)。
その後、めがねの商社で企画営業を経験して、家の仕事を継ぐようになりました。最初は金属・プラスチック材料、メガネの機械の卸販売を行なっていましたが、徐々に海外に市場を奪われてしまった日本の業界が縮小してきまして、2009年に諸井さんが「ギフト組」を立ち上げた時に、僕も何かやってみよう!と参加させてもらいました。それから、自社の材料を貼り合わせる技術を活用して、アクセサリーを企画・製造・販売を行っています。そこでデザイナーさんと共同開発を行った時に「耳かき」がヒットしまして、めがねの業界でも少し話題になりました。
めがねの素材を飛躍させて、新たな自社商品を作る時、どのような点で苦労されましたか。
諸井 まずは、鯖江“ギフト組”のメンバーで、勉強会を行ったり、ギフトショーに出展したりするなど、切磋琢磨しながら自社商品の開発やパッケージの検討などを行っています。みんな、私より10歳ほど違うので、世代による相違を含めた活発な意見交換が良い刺激にもなっています。
本当に最初は、「技術・品質さえ良ければ売れるだろう」と思っていましたからね。デザインって何?JANコードって何?マーケッテイングって?という状態で。パッケージなんかこれですから(当時のパッケージを出しながら)。僕らの常識は、消費者の常識じゃなかったということに気づき、一生懸命伝える方法を学びました。販売価格の付け方も大変でした(笑)
吉川 よくこんなもんで出したな〜って、今なら思えますけどね(笑)。今じゃ三人ともグッドデザイン賞をいただいて、頑張ったなと思います。
津田 みんなで実際に小売店を見に行きましたよね。どんな風に売られているかも知らなかったですから。みんなで割り勘してホテルを予約したり、出張先で飲みながら言いたいことを言い合ったり。いろんなことを思い出しますね(笑)
めがねの枠にとらわれず、様々な事業に取り組んでいるお三方ですが、具体的にはどのような事業を行っていますか。
諸井 今年の4月29日に「レンズパーク」という弊社の商品であるサングラスレンズを楽しんで学べる施設をオープンしました。めがねにとって本来はとても大事なレンズですが、めがねの付属品みたいに思われていて本当のところを知られていないんです。施設では約300色以上の様々なカラーレンズでの見え方や、用途による違いを体験してお客様にピッタリのめがねをご購入できます。
レンズギャラリーの隣にカフェも併設していますので、ゆっくり美味しいコーヒーとソフトクリームも味わえますよ。
津田 弊社の新しい取り組みとしては、「プラスジャック大学」という社員同士が教え合い、助け合う事業を始めたり、昨年から夏祭りもスタートしました。子どもたちに祭りを通じてものづくりの楽しさを伝えるイベントとして企画しています。
人が集まる場所として何がいいかを考えた時、最終的に“祭り“だと思いました。長崎の波佐見焼のある地域では毎日のように祭りをしていると聞いて、毎月どこかの会社で祭りをやっていると楽しくなるはずだ!と期待を込めて始めました。また、最近の子どもたちは彫刻刀のような刃物を持ったことがないという子も多く、ものづくりに触れる場所を提供したいんですよね。そして、社員にはイベントや商品を企画することで、経営の実践の場として教育の意味にもなっています。
吉川 KISSOでは、指輪、イヤリング、バングルなどのアクセサリーを中心とした、透明度の高く色鮮やかなデザイン性に富んだ自社商品をゆっくり選べるショップをオープンしました。現在はそのリニューアルの真っ最中なのですが、完成したら工場見学などを取り入れていこうと考えています。また、百貨店でのポップアップショップも積極的に行っています。
これから積極的にツアーが受け入れられるようになるといいなと思っています。きちんと技術を伝えて、産地を楽しんでもらうコンテンツを作っていきたいですね。以前、夢を描く機会があったのですが、僕は自分の会社が「KISSO LAND」と言えるようなテーマパークにしたいと思っています。
今年のめがねフェスで参加できる「10周年企画 工場見学ツアー」について教えてください。
諸井 弊社の「レンズパーク」内にて、先ほど申し上げたよう多様なレンズを見ていただき、価格の高い、安いサングラスの違いについて体験していただいたり、レンズをどのようにフレームに嵌めるのかを学べるワークショップに参加していただいたりと、レンズをいろいろな角度から楽しんでいただける内容になっています。
津田 プラスジャックでは、アセテートの加工の現場を一通りご覧いただき、100種類を超える機械の見学説明を行います。止まっている機械もQRコードをかざして動いている時の様子をご覧いただけるようになっています。めがねのピンバッジを作るワークショップができたり、意外と人気なのが「爪磨き」です。研磨機械を実際に使ってみていただきながら、爪をピカピカにしてもらえるので好評です(笑)。
今後、どのようなめがねフェスになっていくことを期待しますか。
諸井 めがねフェスというよりは、めがねそのものの話になりますが、次世代のAIの世界になってめがね自体の存在意義が変わっても、めがねの技術・産業が残ればいいと思っています。めがねづくりには欠かせない技術や産業が、いずれ新たな形で飛躍していけば、めがねから生まれたと言っていいわけですからね。そういったさらに新しい展開に若い世代がかっこいいと思ってくれたら嬉しいですね。
津田 僕は、街中にめがねフェスのような祭りだらけになっていてほしいと思いますね。どこかで誰かが祭りを開いていて、そういった雰囲気の中で、少しでも「めがねっておもしろいなぁ」と感じてもらい、ものづくりの楽しさを感じた人がめがね業界に入ってくるような循環になってほしいです。
吉川 先ほども述べましたが、やっぱり僕は鯖江のまち全体がめがねをはじめとしたものづくりのテーマパークになっていることを夢見ています。丹南は様々な伝統工芸もありますし、こんな地域はここにしかないんですよ。ものづくりを主軸とした観光産業が、もっと活発になればいいと思っています。めがねフェスだって年に2回すればいいと思います!(笑)。
めがね一つで、縦横無尽にアイデアが広がる三人のお話。
それぞれの商品を手に取ると、めがねの先におもしろ未来が見えるかも!?
ぜひ会場で、誰かに、自分のために、各社の技術を活かした逸品を選んでみてはいかがでしょうか。